日本酒ファンの皆さんこんにちは!
今回は、群馬県は川場村にある『土田酒造』さんが醸す『シン・ツチダ/完全無添加醸造』を紹介します。
土田酒造さんと言えば全量生酛仕込み。 醸造技術や日本酒文化を次世代へ繋ぐべく様々な実験的な『研究醸造』シリーズを発売している今注目の酒蔵さん。
さて『シン・ツチダ/完全無添加醸造』、一体どんな味わいなんでしょうか?
『シン・ツチダ/完全無添加醸造』は複雑な味わいも軽い飲み口
飯米をたっぷり溶かし、旨味も酸も盛りだくさん!
酒蔵のある川場村は、沼田の河岸段丘を北東部にすすんだ武尊山の山裾に位置します。
村にはその名が示す通り4本もの一級河川があり、酒蔵の傍らにも薄根川が流れます。
中庭に水音を立てて流れる仕込み水は、関東名水百選の武尊山からの伏流水。 溶岩層を通ったミネラル豊富な井戸水は、目指す酒質に最適なんだそうです。
《原料米》『群馬県産飯米』100%
《精米歩合》90%
《酵母》酵母無添加
《種麹》焼酎用黄麴、麹歩合35%
《アルコール度》16度
《造り》生酛造り・火入れ
《お値段》720 ml 1980円
《製造》令和3醸造年度
原料米は、群馬県産米の食用米。 なんと精米歩合は90%で、普段のご飯と変わらないくらいです。
世の酒が酒かすを多く残した綺麗なお酒なら、『シンツチダ』は米をよく溶かしてアミノ酸の旨味を活かした真逆なお酒なんだそうです。
麹は焼酎用の黄麹を使用し、麹歩合は35%。『力強い麹菌・極端に短い製麹時間・発酵温度の調整』をポイントにして造りこまれています。
その結果アミノ酸度は4~5、酸度は4~5と、旨味も酸もしっかりと出ていますね。
実はR3醸造年度は少し変化があって、搾った生状態で2か月ほどタンク熟成。その後火入れされています。 少し重めのニュアンスを狙われたようですね。
こんなに緻密な説明して大丈夫なのかと思うくらい明け透けに説明されている。 柔らかな酸味は毎年の変化にこそ秘密があるのかな?
土田酒造の造りは『完全無添加 生酛造り』
さて『土田酒造』さんの造りの特徴は、全量を生酛造りで、米・米麹・水そして微生物だけで行い、それ以外のものを一切添加していません。
特にアミノ酸に注目した造りとなっており、原料米をなるべく削らずに蔵付き酵母を使用して、米の持つ複雑な味わいが追求されているんです。
この『シン・ツチダ』はスペックからは濃厚で骨太なお酒が想像されますが、いたって飲みやすく味わい豊かなお酒となっています。
ところで『シン』とは、どんな意味なのか? 前面に出したロゴマークは、『土』の 象形文字をモチーフにしたそうですが。
そんなマークから、新、真、神、信、心、深、進、芯、伸・・・と皆さん飲みながら想像してみてください!
生酛造りの透き通った酸味の利いたキレ良い味わいは、目指した新政の造りとはもう別次元で見事な仕上がり。 参りました!
多彩な土田酒造のラインナップを紹介
若い蔵元さんと杜氏さんのコンビが世に問うお酒造りのモットーは、あの日本一の地酒蔵よろしく『うまい酒を目指す』なんだとか。
歴史は古いけれど、毎年仮説検証を繰り返すスタートアップ企業のようなエネルギッシュな酒蔵さんなので、シン・ツチダ以外の代表的なものを紹介しておきます。
商品名 | 造りの特徴と味わい |
土田生酛 | 土田酒造の中では高精白な精米歩合60%。協会701号酵母で醸した、味わいがありながらも軽いクリアな後味が特徴の食中酒です。 |
イニシャルズF | 醸造年度ごとに味わいが異なり、『F』とはFantasticの意味。クセは少なく比較的飲みやすく、さわやかな酸味と甘みがあって白ワインのような味わいです。 |
Tsuchida99 | 通常は2割程度の麹米を99%使った酒。蔵付き酵母で麹由来の甘みと酸味がひろがる、クリアな後味ながらワイルドな野性味さえ感じる旨さです。 |
シン・ツチダ舞風 | 群馬県産の酒米・舞風を90%低精白で酵母無添加・生酛造り。シン・ツチダの味わいをベースにした骨太で濃厚な味わいも、やや甘みがあり柔らかい口当たりです。 |
『シンツチダ/完全無添加醸造』と今夜の肴
伝承の生酛仕込で熟成されたお酒は保管前も開栓後も常温が基本。 開栓したての甘やかさは数日で落ち着いて、スッキリ・サッパリした飲み口へと変化します。
そんな変化を楽しめる『シン・ツチダ』には、酸やスパイスの効く中華料理やエスニック料理、そしてニンニク使用の西洋料理にもオススメなんだとか。
そこで、今回はよく自転車旅で登場するあの方が大好きな『オムライス』で、伝承の軽く酸味の利いた味わいを楽しみました。
『土田酒造』の紹介
『土田酒造』さんは1907年沼田市で創業。 戦前の品評会で名誉賞を関東で唯一受賞している名門の酒蔵さんです。
しかしながら1992年、酒蔵は再開発の影響から良水に恵まれる川場村に移転することになります。
利根川の上流域にある川場村は、平成の大合併をスルーした人口3000人余の小さな村。 そこに2つもの酒蔵があるのは良水が理由なんです。
さて、そんな土田酒造さんの経営を引っ張るのは6代目蔵元の土田祐士さんと、杜氏の星野元希さんのコンビ。
1976年生まれで次男の祐士さんは大手ゲームメーカーのプログラマー出身。 友人との飲み会に持ち込んだ蔵酒の評判から、酒造りに興味を抱きます。
実は兄や姉は酒蔵を継ぐ気もなく、末っ子の祐士さんが2003年に帰蔵。 広島の酒造研究所や地元の研修会などで酒造りを学びます。
そして2008年法人化に際して先代から蔵元を継ぎ、翌年に新ブランド『土田』を立ち上げます。
一方の星野さんは1985年東京生まれ。 高校2年次に醸造に興味を持ち、東京バイオテクノロジー専門学校卒業後、2006年に土田酒造に入社します。
実は群馬県には祖父母の実家があり、就職活動では酒造組合の電話リストから唯一土田酒造にたどり着いたそうです。
その後星野さんは順調に酒造りを修業し、土田さんの信任厚く2012年には若干27歳で杜氏に就任します。
さて、土田酒造の新たな幕開けはまだまだ、これからの話になります。
新杜氏の自由奔放な発想から山廃造りの挑戦を始めますが、コンサルタントに財務分析から酒蔵の危機的状況を告げられます。
2015年当時の造りは普通酒が4割、このままではじり貧の状況でした。 そこで全国から100余りの酒を集めて、二人で目指すべき酒質を探ります。
ベンチマークした酒は、当時の先端、いや異端だった『新政酒造』の造りでした。 それは『酵母は自社6号酵母のみ、秋田県産米、無添』と、当時の常識外れ。
熱情あふれる星野さんは手を尽くしてみるもその造りは謎でした。 そんな矢先に地元で新政酒造さんを招いての勉強会が開催されます。
縁を得て新政の杜氏さんの教えを乞うことが願い、漸く高評価の酒を造りだします。 そして2017年、大胆にも全量山廃仕込みへと大きく舵を切ります。
ところが暫くして、山廃で造った大量のもろみが乳酸菌に汚染されるという緊急事態が発生。 検証をへて、2019年に安定した『全量純米生酛仕込み』へと再び大きく舵を切ります。
様々な試練を酒造りの楽しさに切り替えて、今では『研究醸造シリーズ』にて中長粒米や自然栽培米、木桶仕込みなどモダン・クラシックな酒で世間を魅了しています。
まとめ
これまで土田酒造さんの研究酒が店頭に並んでいても、トラマサはさんざん世の研究・実験酒に苦戦した経緯から、手に出来ていませんでした。
初めてその神秘の味わいに出会ったのが、つい先日開催された渋谷の『SAKEPARK』。 柔らかな生酛特有の酸味、そして新政チックな味わいは本物でした。
経営危機を回避するための若き蔵元の確かな決断力と経営戦略、そしてIOTを駆使した情報共有の組織運営。
さらに酒造りに心ときめかせる若い杜氏との飽くなき商品開発の経営ベクトルは、蔵元杜氏だけではない新しい酒蔵経営の方向性を示しているようです。
それでは皆さん、今回はこれで失礼します。 今回も最後までお読みいただき有難うございました。