日本酒ファンの皆さんこんにちは!
今回は福島県喜多方市の最北部にある、笹正宗酒造さんの『ささまさむね夏のにごり生』を紹介します。
『笹正宗酒造』さんは、昔ながらの造り方で品質第一の酒造りを貫いてきた酒蔵さんですが、若い蔵元さん兄弟が今チャレンジを始めています。
さてそんな『ささまさむね夏のにごり生』、一体どんな味わいなんでしょうか?
『ささまさむね夏のにごり生』は柔らかな甘さと酸の爽やかさが共存
飯豊山系の軟水の伏流水で、のどごしスッキリの女性的な味わいを醸す
『笹正宗酒造』さんがあるのは、喜多方市街から北へ15分ほどの上三宮町。 ここは喜多方の中心部に比べて平均気温が2度も低く、蛍が舞う水清らかな地です。
仕込み水は飯豊山系の伏流水で、初夏まで残る雪解け水はゆっくり時間をかけて、円やかさと甘みを含んだ軟水となって平地へと注いできます。
喜多方の水は新潟辺りに比べて硬度は半分程度。 喉越しはスッキリとしていながらも、甘味と旨味が勝る女性的な味わいを醸し出します。
《原料米》喜多方産『夢の香り』
《精米歩合》60%
《酵母》福島県夢酵母F701+協会18号酵母
《日本酒度》- 《酸度》-
《アルコール度》13度
《造り》生原酒/にごり酒
《お値段》720 ml 1555円
《製造》2022年7月
酒米は喜多方産『夢の香り』で、喜多方の米農家さんと契約栽培しています。
酵母は他の『ささまさむね』同様に、福島県夢酵母F701+協会18号酵母が使われています。 蔵元さんのつくる新しい酒の味わいのベースとなるものです。
ブレンドにより華やかすぎないバランス、程よい透明感とジューシーな甘みに加えて、果実的な優しい酸が絡んできます。
そして今はやりの低アルコール13度の微炭酸のにごり酒で、滑らかでさらりとした中にきめ細かな米の旨みが豊かに溶け込んでいます。 まさに爽やかな初夏の味わいですね!
『ささまさむね』の商品ラインの紹介
笹正宗酒造さんには、漢字の『笹正宗』、カタカナの『ササ正宗』、そしてひらがなの『ささまさむね』があります。 いずれも甘めの酒質ですね。
『笹正宗』は、いままでの味わいを継いでいくことを意識したあくまで地元向けの日本酒。 また『ササ正宗』は、フルーツのような香りが高い大吟醸系統のお酒。
そして『ささまさむね』は、香りのバランスを重視し味わいは時流を意識したきれいな酒質のお酒で、生酒やにごり酒、あるいは一度火入れのタイプとなっています。
『ささまさむね夏のにごり生』と今夜の肴
喜多方のグルメと言えば、何といっても『喜多方ラーメン』。 普通の食堂でも出す朝ラー文化は、讃岐うどんなみのグルメ文化。
その他にも『馬刺し』や『そば』はつとに有名ですね。
でもこれまで何回も紹介しているので、今夜は隣の山形県鶴岡の名産『だだ茶豆』のほの青い甘みと、うす濁りの柔らかな甘みを合わせてみました。
『笹正宗酒造』の紹介
『笹正宗酒造』さんの創業は1818年、200年余の歴史ある酒蔵です。 なんと風格ある店舗兼主屋や土蔵造りの貯蔵庫など8件が、国登録文化財に指定されています。
創業以来『ほんものを造る』という社是の下に、日本酒の造りが下り始めた1977年より、東日本で初めて純米酒製造に取り組み、『地酒ブーム』の先鞭をつけています。
その取り組みは79年東京サミットの折、米国大統領カーター氏が六本木にて振舞われた笹正宗純米酒を絶賛したことが、世間で話題になります。
ところが90年代後半のバブル崩壊に加え、ワイン・焼酎等の台頭などから日本酒消費が加速度的に落ち込む中、状況打開の積極投資が裏目となります。
さらに加えて2011年の東北大震災やその後の風評被害などが、厳しい経営に追い打ちを掛けます。
さて8代目蔵元の岩田悠二郎さんは武蔵大学は経済学部を卒業。 当時は長兄が家業を継がない方針のため経営の勉強とばかりに、4年間コンビニ会社で店舗マネージャーを勤めます。
そして震災翌年の2012年に蔵元に帰ってみれば、経営は火の車。 まずは、良いお酒造りが基本と考えて、福島県清酒アカデミーで酒造りを学びます。
そこで学んだ最新の技術と技能を融合させたIWC2015初出品の酒で、なんと部門最高賞に次ぐ福島トロフィーを受賞します。
家業の立て直しに手ごたえを感じ始めた2016年に、悠二郎さんは先代より経営を引き継ぎます。 しかし、目の当たりにした財務状況は想像を超えるものでした。
新たな借入は到底無理な中で、中小企業診断士へ相談。 プロの見立てで、単なる経営改善計画ではなく『オールふくしま経営支援事業』のサポートを受けることになります。
再建のポイントは『期間利益を生み出せる収益体質への転換』と、『家族経営故の弱いガバナンスからの脱皮』でした。
3年間のサポートは、原価や経費の見直しから戦略的マーケティングの導入、債務整理を含めた財務面の改善について取引金融機関による支援を受けるなど多岐にわたりました。
そうして2021年5月、メインバンクによる DDS(貸付金の劣後化)などの手法によって経営の再建を実現することができたのです。
改善成果として、3年前に比べて売上高総利益率が8%もアップ。 さらには、震災前以来となる営業利益の黒字化を達成している。 リッパ!!
そんな取組を経て、2021年と22年の全国新酒鑑評会では金賞を受賞。
経営の安定化が酒質の向上に繋がり、蔵に戻ってきた長兄の高太郎さんと兄弟で、無農薬・有機栽培の地元米でさらなる酒質改善に取り組んでいます。
まとめ
人口43,000人の蔵の街・喜多方には、水が美味しいからこその酒蔵・醤油蔵も多く存在。 おそらく清酒醸造蔵数は人口比で、喜多方は全国トップクラスという酒処でしょうか。
もともと喜多方の酒蔵は会津藩の庇護も少なく、景気の荒波を被ってきたとか。 そんな逞しい独自の気質が、9年連続金賞日本一や世界の酒コンテスト1位を生み出したに違いありません。
原発の風評被害に加えてここ2年はコロナ禍の逆風。 そんな中でも着実に出来ることから歩み始めた新しい経営スタイルは、確実に利益を生み出しています。
社会経済の環境変化や自然災害による経営の危機、さらには人・モノ・金の経営資源の不足など様々な状況から酒造りを断念し、M&Aや廃業するケースが散見されます。
笹正宗酒造さんのように若い後継者がいても、前からの借入金過多や赤字などで財政状況が一向に改善しない酒蔵もあります。
今回のように科学的経営手法を取り入れた現状分析や金融や税務など外部コンサルタントの導入、改善後の金融機関との減免措置などのスキームは、検討に値するのではないでしょうか。
それでは皆さん、今回はこれで失礼します。 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。