日本酒ファンの皆さんこんにちは!
前回は、『湯田温泉さけまつり』の記事で今どきの山口の美味しい日本酒を紹介しましたが、今回はコク深い味わいと立体感のある『雁木ひやおろし』を紹介します。
これまでに岩国の酒と言えば、『金雀』や『ファイブ(五橋)』を紹介してきましたが、そのどれもが特徴ある味わい。
さて『雁木ひやおろし』、一体どんな味わいなんでしょうか?
『雁木 ひやおろし純米』はボリューミーも、キレ良い飲み飽きしない味わい
仕込み水を深井戸から汲み上げ、西都の雫でスッキリ仕上げに
『八百新酒造』さんの酒蔵があるのは、錦帯橋をさらに下った河口近く。 錦川上流部にダムができたため井戸水に海水が混じりはじめ、酒質が悪くなったとか。
そのためタンクローリーで上流部まで水を汲みに行ってたそうですが、今は深井戸を掘りなおして仕込み水を汲み上げているそうです。
そう言えば川向うの五橋を醸す酒井酒造さんも、醸造用の井戸は40メートルから取水してるそうだよ。 もちろん水質は超軟水!
《原料米》麹米『山田錦』、掛米『西都の雫』
《精米歩合》60%
《酵母》-
《日本酒度》- 《酸度》-
《アルコール度》17度
《造り》純米無濾過/火入れ
《お値段》720 ml 1540円
《製造》2022年9月
酒米は麹米に『山田錦』、掛米に山口県オリジナルの『西都の雫』が使われています。
『西都の雫』は母方に幻の酒米『穀良都』、父方に『西海222号(親が山田錦)』で交配・選抜された酒米で、キレの良い味わいを生んでいます。
立香よりも含み香があり、火入れ熟成により落ち着いたお米のうまみが伝わってきますね。 バランスよく綺麗に仕上がっています。
雁木の造りの特徴は、丁寧な仕込みで綺麗な酒質をつくる
さて『雁木』の造りの特徴は『純米』『無濾過無加水』にありますが、仕込み作業にも特徴があります。
まず洗米作業は10キロ単位で、水切りは専用の遠心分離機で行われています。 そして、蒸しあがった米はナント木樽で運ばれています。
また麹も仕込みの少ないときは冷凍保存され、必要に応じて解凍され使用しているそうです。
特徴的なのが仕込みの初添え。 大容量のタンクでは麹と酵母の調和がイメージ通りにいかないようで、小さなタンクが使われています。
もちろん中添の段階で移し替えるそうですが、こんな丁寧な仕込みによって、雑味のないコクと旨味が感じられる酒質に仕上げらているのでしょうか。
米のうま味とコク、さらには酸味も微妙に加わり、キレイな輪郭が感じられるね!! 熟成で少し軽くなったかな?
『雁木 ひやおろし純米』と今夜の肴
『雁木』は、そのどれもが純米・無濾過無加水。 香りは穏やかながらボリューミィーな飲めば飲むほど、コクと旨味が感じられるお酒です。
なので、深まる秋の夜長は『豚肉ロース炒め』と『小茄子』で合わせてみました。
『八百新酒造』の紹介
錦川の河口近くにある『八百新酒造』さんの創業は1877年(明治10年)。 酒造名は、創業者の八百屋新三郎にちなんでいます。
ちなみに酒蔵のある敷地は岩国藩主吉川家の別邸で、お茶屋跡の名残をとどめる和と洋が融合した外観の家屋が、その昔の栄華を残しています。
本家『八百甚』が醬油製造を本業としていたのに対して、分家『八百新』は清酒製造を本業とし、酒名は夫婦の二文字から『新菊』と命名します。
2代目の時代には、その『新菊』を岩国のトップ銘柄にするなど絶頂を極めますが、戦中戦後のコメ不足をうけて、不慣れな三倍醸造酒で評判を落とすことになります。
さらに3代目の時代になるとさらに経営はひっ迫し、杜氏と蔵人1人、あとは年間雇用の社員でやりくりします。
そして迎えた2000年、5代目の小林久茂氏が蔵元杜氏に就任し経営改革を断行。 社名を『八百新酒造』に改め副業のビール等小売りを廃止、清酒製造一本に事業を絞ります。
試行錯誤の末に生まれたのが、わずか600本の純米無濾過生原酒の『雁木』でした。 久茂氏は『純米』『無濾過』をコンセプトに生産を徐々に増やしていきます。
近年はようやく蔵人も8人となり、生産量も1500石にまで回復。 ANA国際線ビジネスクラスの機内提供酒に3年連続採用されるなど人気も急上昇しています。
酒質も大きく改善しているのでしょう、海外ではIWC2022やKuraMaster2022で上位入賞を果たしています。
まとめ
『雁木』とは、かつて川べりに設置された階段状になった船着き場のこと。 原料となる米をはじめ、さまざまな物資がここから陸揚げされていたそうです。
5代目久茂氏が『水際にいのち生まれる』という思いを込めて誕生させた『雁木』は、まさに水際の出発点。
この酒蔵には順風満帆の時もあれば、戦前戦後の激動の時代の波にさらされた時もありました。
5代目蔵元が、蔵の経営も酒の味にも原点回帰を求めた『雁木』は、今大河を下りようやく広い海原へと向かっています。
それでは皆さん、今回はこれで失礼します。 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。