
日本酒ファンの皆さんこんにちは!
今回は、新潟は上越市浦川原にある新潟第一酒造さんが醸す『山間』を紹介します。
ところで、この辺りの冬は全国有数の豪雪地帯。 そしてのどかな上越の中山間地帯には、美しい棚田の風景が広がっています。
そんな山里深い地で醸される『山間』、一体どんな味わいなんでしょうか?
『山間 18号/特別純米』は、中採り直詰めの滑らかで綺麗な味わい
『山間』は他の新潟酒と対局にある無濾過の濃厚旨口酒
酒蔵の仕込み水は、ナント裏山の湧き水。 なんでも敷地内の井戸が枯れたため探していたところ、裏山でこんこんと湧く伏流水を見つけたそうです。
水質は柔らかく、目指す酒造りにピッタリ。 枯れる心配もなく一安心です。
さてこちらの『やんま18号』の酒米は、麹米が『五百万石』で掛米が『こしいぶき』となっています。
同社の『五百万石』『越淡麗』などの酒米は、農業特区制度で農地をリースしている地元のファーストファーム(株)さんに栽培を委託しています。

《原料米》麹米『五百万石』掛米『こしいぶき』
《精米歩合》60%
《酵母》-
《日本酒度》- 《酸度》-
《アルコール度》17度
《造り》特別純米/無濾過原酒/火入れ
《お値段》720 ml 1760円
《製造》2023年6月
『やんま』の造りは、基本的に中採り部分を直詰めしたお酒。 無濾過生原酒となるタイプが多いのですが、こちらは夏出荷の瓶燗火入れタイプとなっています。
冷蔵庫で一定の貯蔵期間を経ての出荷ですが、直詰めの微発泡感もしっかり。 甘味を伴う香りと果実のようなフルーティーさ、ふくよかな旨味が感じられます。

いやー、最初に口にした時のインスピレーションは、これが新潟酒かと思った。 甘旨で綺麗な味わいは、むしろ長野より。 もっと人気が出るかと思うな・・・
独特な『山間』の造りと商品ラインの紹介
『新潟の酒なのに新潟らしくない酒』といわれる『山間』。 それは、中採り直詰めの独創的な製造方法と関係があるのです。
また一般的に、搾った酒は複数のタンクを混ぜて合わせて瓶詰めされますが、当社ではタンクごととしています。
端的に言えば、ロット毎に酒米や仕込みなどが変えられており、微妙に違う味わいが楽しめるのです。
ロットNoはラベルに印刷されていて、今流にいえば混り気がないトレーサビリティの意味合いもあるでしょうか。

ネーミングは、『米どころ新潟』らしく農機具メーカーの語呂合わせで、有名な『クボタ=久保田』なら、こっちは『ヤンマー=山間』となったらしい。 会社名は平凡だけど、ブランド名は親しみを覚えるね!
それでは、無濾過原酒の濃淳でフレッシュな味わいの商品ラインを紹介します。
銘柄 | 造り | 特徴 |
山間 | 純米系 | 中採り部分を直詰めした純米系の無濾過原酒で、酸と旨味を感じる個性のある味わい。 純米大吟醸、純米吟醸、特別純米など。 |
鬼山間 | 純米系、本醸造 | 甘みのある「山間」に対して、旨味が溢れる芳醇辛口タイプ。もちろん、中採り直詰めしています。 |
岩豊 | 純米生酛造り | 醸造責任者である岩崎豊氏が開発した、生酛造りの新製品。熟成した吟醸香があり、甘酸っぱく生き生きした酸味が感じられます。 |
越の白鳥 | 純米系、本醸造 | 搾り初めの『荒走り』と中採り以降の『責め』をブレンドし、ふくらみのある豊かな味わいで、地元新潟での販売商品。 会社設立時の公募から誕生した看板酒。 |
『山間』と今夜の肴
『新潟第一酒造』さんがあるのは、まさに棚田が一面に見渡せる小高い丘の上。 冬になれば、目の前の棚田が当たり一面真っ白になる銀世界なんだとか。
ちょっと季節は早いけど、たっぷり旨味を吸った大根の煮物と肉汁たっぷりのハンバーグで、新潟らしくない旨味たっぷりの『山間』をいただきました。

『新潟第一酒造』の紹介
山間を醸す『新潟第一酒造』さんは、1922年(大正11年)の亀谷酒造さんの創業に遡ります。
その後高度成長期の1963年に制定された『中小企業近代化促進法』によって、4つの酒蔵が合併。 そして2年後にもう1社が加わります。
それがなぜ第一の社名になったのか。 新潟県においてその法律の適用第1号となったところからきています。

いわゆる促進法は、大企業に比べて劣る中小企業の生産性、設備、技術開発力、組織の近代化を図ることを目的としていた。 酒造業は特定業種に指定されて、生産規模や経営規模の適正化・集約化による構造改善を図ってきたが、1999年その法制は経営革新法などに引継がれている。
合併当時の生産量は4800石と、上越地域の酒蔵では 2 番目の規模であったそうですから、売り上げ規模の拡大効果はそれなりにあったでしょう。
一方で多くの従業員を抱えたことから卸売り免許を取得し、ビール・焼酎、そして清酒の2次卸も行うようになります。
しかし1994年大規模小売店舗法の改正を皮切りに、スーパーなどがお酒を扱うようになり、上越地区にも日本初のパワーセンターが誕生し、酒小売の大変革が始まったのです。

現在社長を務める武田良則氏は、丁度この頃に入社。 事務から営業を担当する中で、売上拡大は緊急度の高い経営課題となっていました。
そして新潟全域にセールス活動を広げる中で聞いたのが、『越の白鳥』は品評会で賞を取れないまずい酒という評判でした。
そこで当時の社長(父)や杜氏に、自分が醸造責任者として酒造りをすることを提案。 酒造りは素人ゆえ、東京は滝野川で研修をすることになります。
蔵に帰り基本を大事にした酒造りを行った結果、2000年の地元品評会では3位、翌年も3位。 そして翌々年は見事1位となり、その後全国入賞を連続で果たします。
しかし大吟醸は一定の評価を得たものの、純米酒がさばけません。 ある時武田さんは、搾りの工程で搾る段階ごとに味わいが違うことにヒントを得ます。
そこで、味のまとまった『中採り』を詰め込んだ『越の白鳥 かめ口一番』を2003年に売り出すと評判を呼び、その後純米吟醸にも適用。 こうして2007年に『山間』が世に出たのです。

合併時に『すっきりきれいな辛口の酒』を目指したものの、いつしか酒質は低下。 武田さんの奮闘でようやく名誉挽回です。
一方の組織面では、引退していく杜氏や蔵人の代わりに従業員を充てながらスリム化。 2006年に従業員だけの醸造体制となり、40年来の集約合理化の幕がおりたのです。
そして今武田さんは、新たなステージに向けて北海道の三千櫻酒造にて修業、新ブランドを開発するなど次世代への継承を模索しています。
まとめ
今回は図らずも、戦後経済構造の二重化解消をねらった中小企業政策にゆれた酒造業界の歴史の一端が見えて、今後の酒蔵の方向性をも考えさせられました。
今の時代は、生産サイドも販売サイドも縮小する国内の酒需要を競争で捉えなければなりません。
一方国内がダメなら海外戦略かと言えば、一定の生産力や販売体制がないと一筋縄ではいきません。 でも、2022年度の輸出額は13年連続で伸びています。
『山間』は他の新潟酒との差別化ができており、認知されやすい側面があります。 国内・海外での伸長が大いに期待できそうですね。
それでは皆さん、今回はこれで失礼します。 今回も最後までお読みいただき有難うございます。