日本酒ファンの皆さんこんにちは!
今回は滋賀県は木之本町の冨田酒造さんが醸す『七本鎗 低精白純米生原酒』を紹介します。
雪深い北國街道の宿場町にあって、戦国武将の戦功を名に遺す『七本鎗』。
さて一体どんな味わいなんでしょうか?
『七本鎗 純米 80%精米生』は季節限定も数年に一度の限定品
80%精米ながらも、心地よい香りと米の旨味の余韻が素晴らしい
冨田酒造さんがあるのは滋賀県の最北部で気候的には北陸。 まさに豪雪地帯でその地下水が豊富なところです。
蔵内の井戸からは、円やかな中硬水がドバドバと汲み上げられています。 なんと贅沢にも一日あたり平均2万ℓを使用しているそうです。
また滋賀県は米作りも盛んな地であり、冷涼な気候と相まって独自の発酵文化が発達してきました。 なので同町には酒蔵は2件、醤油蔵は3軒もあるそうです。
《原料米》滋賀県産『玉栄』100%
《精米歩合》麹米60%、掛米80%
《酵母》701号
《日本酒度》+5.6 《酸度》2.0
《アルコール度》16度
《造り》純米生原酒
《お値段》1800 ml 2970円
《製造》2023年2月
一方、酒米は滋賀県産『玉栄』。 以前栃木の『望 玉栄』でも紹介しましたが、玉栄は心白が発現しにくいため吟醸酒造りには不向きで、キレのある辛口の酒が作りやすいとか。
特徴的なのは精米歩合で、丹精込めて作られた米を大事にと80%の低精白で醸し、米の旨味を活かしています。低精白は2004年からと取り組みが早いですね。
玉栄の特徴を掴んだしっかりした芯の骨格ある味わいで、生酒の心地よい香りに酸度も高くてキレ味よい仕上がりとなっています。
地元酒米に拘った商品ラインは、7%アワ酒から生酛木桶仕込みまで多彩
『冨田酒造』さんではとにかく地酒の『地』に拘って、酒米は『玉栄』をメインに『渡船』『吟吹雪』『山田錦』、そして『旭』とオール地元米が使われています。
酒米は地元篤農家さんや地元農業高校との契約栽培により調達。 さらには、2010年からは完全無農薬米による酒造りにも挑戦されています。
そして造りにおいては、7%スパークリング、米の旨味を引きだす低精白酒、乳酸を活かした味幅のある生酛、長期熟成酒など、多彩な商品ラインが揃っています。
商品選びの参考までに以下を紹介します。
商品名 | 造り | 特徴 |
七本鎗純米大吟醸 | 玉栄45%精米 | 穏やかな香り・心地よい旨み・味わいの綺麗さを持ち、純米大吟醸の中ではコクのある味わいになります。燗酒もおすすめ。 |
七本鎗無農薬無有生酛 | 玉栄60%精米 | 農薬を一切使わない無有の玉栄での生酛造り。乳酸が出て味幅のある仕上がりです。 1年半の熟成期間で、たっぷりと旨味が乗っています。 |
七本鎗スパークリング | 玉栄60%精米,7度 | 瓶内二次発酵のスパークリング酒。低アルコール且つ甘酸っぱい味わいが特徴です。 |
七本鎗純米 | 玉栄60%精米 | 米のふくよかな旨味としっかりとした酸を併せ持っている特徴の定番酒。冷酒から熱燗まで、味噌味や甘辛い味付けのお料理と好相性。 |
七本鎗純米 | 渡船77%精米 | Kura Master2018「プラチナ賞」「審査員賞」受賞。柔らかい渡船の特徴をそなえ、低精白ながら重たすぎず、キレの良い酸が特徴です。 |
純米熟成酒 琥刻 | 玉栄 | 時の刻みによる厚みが加わり、深みが増し琥珀色となる熟成酒。2010~12年は山廃仕込み、2013~20年は蔵付天然酵母を使用、2021年からは生酛造り。 |
60~80%精米の純米酒を基本として、米の旨味を追求したラインナップが形成されている。『無農薬』『生酛』とか、これからのトレンド『長期熟成酒』などもしっかり押さえてるね!
『七本鎗 純米80%精白』と今夜の肴
滋賀県は、琵琶湖を始め鈴鹿山脈からの豊富な水資源に恵まれ、湖魚をとる漁業や稲作、酪農が盛んな地です。
安土桃山時代の近江米は全国一の石高だったそうで、琵琶湖で獲れた湖魚を保存するために生まれたのが『熟れ鮨』などの発酵食。 1300年もの歴史があるそうです。
また、絶妙な霜降り具合の『近江牛』は江戸時代からのブランド牛。 そして、熊や鹿、真鴨などのジビエ料理も滋賀の魅力となっていますね。
そのどの料理にも合うのが骨格のある『七本鎗 純米酒』。 今回は、和牛カルビで決めてみました。
『冨田酒造』の紹介
羽柴秀吉と柴田勝家が覇権を争った『賤ヶ岳の戦い』は1583年(天正11年)。『冨田酒造』さんは1534年(天文3年)創業とそれより早く、490年近い歴史の老舗酒蔵さんです。
さて1970年代、蔵の経営は前回紹介した『紀土』を醸す平和酒造さん同様、伏見への桶売り。 90年代は益々の需要低迷で、安売り競争が激化していきます。
15代目蔵元杜氏の冨田泰伸さんは京都産業大学を卒業後、東京は協和発酵に就職。 2002年に蔵帰りする前に、ヨーロッパのワイナリーを巡ります。
旅で刻んだ『この土地で作ったブドウでこの土地を表現する』というワイナリー場主の言葉に、土地建物や歴史をひっくるめた『蔵』の魅力に気づかされます。
そんな経験が、すべての酒米を滋賀県産へと向かわせ、より米の味わいがわかる単一品種での酒造りをすることになります。
酒蔵再生に当たっては数百の酒蔵を訪問。 仕込みに参加させて貰いながら、丁寧な酒造りを学びます。
2005年には限定流通ブランドを立ち上げ、2010年には醸造責任者となります。 そしてこの年より、山廃純米の熟成酒『琥刻』を醸造、貯蔵が始まります。
さて泰伸さんの地酒造りの仕上げは、仕込み蔵の増築。 江戸期からの酒蔵は手狭で、待ったなしの経営課題でした。
歴史を刻む北國街道に面した酒蔵は縦長の敷地で、もはや鉄骨造りしかないかと観念しかけるも、木造での耐震化に道が開けます。
2016年、江戸期の酒蔵に耐震壁の新蔵が建て増しされ、同時に熟成酒の保管場所も確保されて、新たな酒造りのステージが始まりました。
江戸期の蔵が残されたので、何百年も生きた蔵隅の微生物も生かされたかな?!
歴史もそうだけど、時空を超えた目に見えない大事なものを残しておかないとね・・・
まとめ
信長の跡目争いは羽柴秀吉と柴田勝家の賤ケ岳の戦さ。 加藤清正など七人の荒武者の活躍で秀吉側が勝利。その功績をたたえ『賤ケ岳の七本鎗』と呼ばれています。
その勇猛な歴史を名に刻んだ酒名が『七本鎗』ならば、大正期に料理家・書家・陶芸家などの名を残した魯山人がこの蔵に扁額を残し、そしていま酒ラベルを象ります。
ところで、琵琶湖は京都・大阪の水がめ。 高度成長期には琵琶湖に赤潮が発生し、主婦層を中心に粉石けんを使おうという運動が起こりました。
湖国の人々には、昔から様々な環境保全に取り組んできた歴史があります。 無農薬に取り組む篤農家さんとしっかりタッグを組んで、その環境を守り抜いて欲しいですね。
それでは皆さん、今回はこれで失礼します。 最後までお読みいただき有難うございました。