日本酒ファンの皆さんこんにちは!
今回ご紹介するのは、埼玉県は蓮田市の緑豊かな田園地帯にあって、戦後日本一早く純米酒造りに転換した『神亀酒造』さんが醸す『神亀 山廃純米酒生』です。
さて『神亀 山廃純米酒生』、一体どんな味わいなんでしょうか?
『神亀 山廃純米酒生』は旨みとコクがありながらキレよく仕上がる
酒米は新潟県産五百万石で、輪郭が柔らかくさらりとしている
『神亀酒造』さんの仕込み水は、近くを流れる元荒川の伏流水を地下150mから汲み上げています。 水質は硬水で、骨格のしっかりとした辛口純米酒が醸されています。
そして純米蔵がこだわる酒米は、その多くが契約栽培による酒造好適米。 この山廃純米ブラックは新潟県産五百万石で、スッキリとキレ味よく仕上がっています。
さらに有機農法米も積極的に取り入れたところ、旨みとコクがあるにも拘らず酒質はさらりとしているとのこと。 究極の食中酒として益々磨きがかかってきています。
《原料米》新潟県産『五百万石』100%
《精米歩合》60%
《酵母》-
《日本酒度》- 《酸度》-
《アルコール度》18度
《造り》山廃純米生酒
《お値段》720 ml 1930円
《製造》2022年3月
また造りが山廃のせいか輪郭が柔らかく、骨太な含み味がとても美味しく仕上がっています。
この山廃純米には、この生酒以外に『ひやおろし』と『熟成純米』があって、共にシャープな酸味とキレのある味わいに仕上がっています。
神亀の造りは、全量蓋糀と佐瀬式の槽圧搾で深い味わいを生みだす
さて、造りの9割が熟成酒という神亀の造りの特徴を見てみましょう。
特徴一つ目は、麹造りは全量が麹蓋によって行われています。 そのサイズは一般的な箱よりも小さく、動きのある麹菌の操作に適しているそうです。
旨い日本酒を造る決め手は麹造り。 お酒の旨みの7割は麹の味で決まるとあって、2日間かけてじっくりと破精込みが行われています。
そして2つ目は、搾りはヤブタでなく2台の佐瀬式酒槽で2日間かけて搾られています。 これによって旨い部分だけが搾られています。
3つ目は、涼しい蔵や氷温のコンテナで最低2年は寝かして出荷されることです。 若い酒はアルコールが立つため、温めて飲むのには適していないとの理由から熟成されています。
こうして神亀は、年と共に丸みが出て、きめ細やかで味わい深い酒になっていくのですね。
『無濾過生酒』のマイナス10度の氷温熟成にもいち早く取り組んだでいる。 このお酒も瓶詰めは22年3月で店頭購入は5月末なので、2、3ヶ月位氷温熟成されていたのかな・・
定番の熟成酒と生酒のラインナップで究極の食中酒を目指す
ところで、全量純米酒造りを行っている神亀酒造さんさんですが、定番はなんといっても熟成酒の『神亀』と『ひこ孫』です。
最近は定番以外にも生酒やスパークリングもラインナップされており、その比率は全体の1割程度だそうで、特徴を整理してみました。
何でも苦味のある食材『春野菜』や『初カツオ』には、火入れ酒は合わないんだそうです。 そんな処から生酒を出すことになったとか。
またこの『神亀山廃ブラック』には、秋の『冷やおろし』と『熟成酒』があります。 ともに濃厚な旨味とシャープな酸味が味わえますよ。
銘柄名 | お酒の特徴 |
神亀 純米酒 | 美山錦・五百万石・山田錦60%精米の純米酒ブームの先駆け。2年以上の常温熟成を経て、深い味わいと複雑な旨味が渾然一体となっています。 |
ひこ孫 純米酒 | 徳島県産山田錦55%精米で、3年熟成させたお酒です。 熟成香と旨味、酸味がなんとも言えない味わいを演出しています。 |
神亀上槽中汲/純米生酒 | 長野県産美山錦、又は山恵錦60%精米で、酒槽から自然に流れ出た酒を、その場でビン詰めした風味豊かな純米生酒です。 |
Natsunama Light/純米生酒 | 酒造好適米60%精米の夏酒です。夏らしい軽快な酸味が特徴でとにかくシャープでキレのいい仕上がりです。 |
SPRING LIGHT/純米生酒 | 華吹雪55%精米で柔らかなタッチもありますが、神亀らしいキレの良い味わいです。 |
神亀山廃純米/ひやおろし | 神亀らしい濃厚な旨味とシャープな酸味があり、 山廃の良さが際立ちます。 |
埼玉の『神亀 山廃純米酒生』と今夜の肴
『神亀酒造』さんが純米酒にこだわるのは、米の旨味を活かした純米酒こそが料理を引き立て、食事に新たな喜びを生み出す酒だと考えているからです。
そんな米本来の旨味を存分に活かした『神亀 山廃純米酒生』は、燗にもよく合う、深い味わいが魅力。
なので一杯目は生酒のままいただきます。 瑞々しくて少し落ち着いた深みある味わいを、『ヤリイカ』の刺身で楽しみます。
そして2杯目は湯煎して、ウニやいくら、ホタテ、すじこなどの『海鮮漬け』と合わせ、酸味の利いた円やかな味わいを楽しみました。
『神亀酒造』の紹介
埼玉県蓮田市でまず思い浮かぶのは、首都圏に一番近い東北自動車道の『蓮田SA』。『神亀酒造』さんはその近くにあって、1848年の創業約170年の歴史を誇ります。
戦後三増酒の時代、当蔵は1967年に早くも純米酒への切り替えを開始。 72年には三増酒の生産中止、そして87年にすべての酒を純米酒に転換して、全国初の全量純米蔵となります。
『酒は米から』という信念のもとに、この偉業を成し遂げたのは7代目蔵元の小川原(おがわはら)良征さん。
そのきっかけは、東京農大の恩師からの『娘がワインを好んで飲んでいる。本来の造り(純米造り)にしないとワインに席巻されてしまう』との言葉。
良征さんは卒業後酒蔵に入り、厳選した酒米を昔ながらの製法で醸して熟成させるスタイルにたどり着きます。
当時の酒造業界は質より量の時代で、税務署の純米酒は贅沢だという指導を何度もはねのけながらもその信念を貫きます。
なんでも、酒米は良いものを回してもらえずくず米ばかり。 そこで、伝手をたどって阿波徳島から山田錦の入手に成功し、『酒は米から』を身をもって実現します。
全量純米酒造りのパイオニアの話は、挫けそうになるほどの真剣勝負。 その昔、手抜きした麹担当の蔵人を即刻首にしたらしい。 昨今のワインに迎合する風潮には、憤怒しかないか・・
そして体を張った純米酒造りは全国にも波及し、90年代に廃業の危機にあった『るみ子の酒』で有名な森喜酒造場(三重県)にも、自らの経験と技術を惜しみなく伝えます。
こうして良征氏は全量純米蔵を目指す会を組織し、全量純米化に舵を切る酒蔵さんが全国に増えていったのはいうまでもありません。
良征さん亡き後の蔵を継いだのは、娘婿の貴夫さん。 実家は墨田区の酒屋で、父子で神亀を訪ねたのを機に純米酒専門店へと転換し、危機を乗り越えます。
その後良征さんや奥様に見込まれてご長女と結婚し、神亀酒造8代目となります。 そして燗酒JAPANを立ち上げ、燗酒を愛した先代のスタイルを今に受継いでいます。
まとめ
『神亀』という名称は、蔵の裏手にあった天神池に棲むという『神の使いの亀』に因んでいるそうです。 縁起が良い名称ながら、最大のピンチは5代目蔵元の戦死でした。
廃業を迫る税務署の圧力にさらされますが、夫が戦地で一緒だった軍人さんがその窮地を救い、税務署に存続を働きかけてくれたそうです。
その時に奮闘したのが妻くらさんです。 その様子は、尾瀬あきら作の漫画『夏子の酒』の続編『奈津の蔵』のモデルとして描かれています。
そんなお婆ちゃんの苦労をみて、7代目は酒蔵を継ぐ決意をしたと言います。『神亀酒造』さんには伝統の酒造りを守るため、代々の蔵元や妻子などの人々の愛情が一杯詰まっているのです。
それでは皆さん、今回はこれで失礼します。 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。