
皆さんこんにちは!
今回は久しぶりの福島は郡山の日本酒、『おだやか 純米吟醸 冷やおろし』を紹介します。
このお酒を醸す仁井田本家さんは『日本の田んぼを守る酒蔵』をミッションに据え、無肥料自然栽培を貫く、今風に言えば『オーガニック日本酒』を造る酒蔵さんです。
さて『おだやか 純米吟醸 冷やおろし』、一体どんな味わいなんでしょうか?
『おだやか 純米吟醸 冷やおろし』は豊饒なワインのような酸味の利いた味わい
里山の湧水と白糀が作り出す酸の力を借りた天然乳酸での酒造り
仁井田本家さんは郡山市郊外の阿武隈高地の丘陵地域あって、本当に日本の故郷と呼ぶのがふさわしい山里の風景の中にあります。
蔵の入り口には井戸水が汲みだされていますが、中硬水の引き締まった味わいです。 この水は、蔵の看板『しぜんしゅ』の仕込み水に使われています。
一方こちら『おだやか』の仕込み水は、その井戸水ではなく山里からの湧水(軟水)が使われています。
原料米は有機栽培の五百万石で、酒母は蔵付き酵母に白麹仕込み。 クエン酸を利用した酸性環境を造ることで、醸造用乳酸を添加しない造りとなっています。
仁井田本家さんでは、生酛造りで乳酸菌などの添加物を使用しない造りが基本。 この『おだやか』シリーズは、白糀が作り出す酸の力で酒造りをしているのです。
それによって豊饒なワインのような酸味の利いた、そして何よりも自然米のクリアな味わいが見事に演出されています。
先月紹介した『海風土(シーフード)』に続いて、また白糀で醸す素晴らしい日本酒に巡り合えましたね。

《原料米》有機栽培『五百万石』
《精米歩合》60%
《麹》白糀
《日本酒度》- 《酸度》-
《アルコール度》16度
《造り》純米吟醸生詰め
《お値段》720 ml 1925円(税込)
《製造》2021年9月

『冷やおろし』は程よく丸みを帯びた、まろやかな味わい。 実は純吟生酒の『槽口直汲み生原酒』は、2016年に世界で最も影響力のあるワイン評論家ロバート・パーカー氏が91点を付けたそうだよ! 今度は定番の『緑蛙』を飲んでみたいね!
自社田の栽培米、契約米とも自然栽培による酒米造りを実践
蔵の看板『にいだしぜんしゅ』は先代の穏光(やすみつ)さんが立ち上げたもの。 無農薬・無肥料で育てた自然栽培米を使用し、1967年に『金寳自然酒』の名で誕生しました。
深くやさしい味わいと、自然米と自然水で醸す思想で多くのファンを獲得し、50年を超えるロングセラーとなっています。
そしてこの『おだやか』ブランドは、穏彦さんが蔵に戻るや先代の向こうを張って、歴代の当主がつけてきた名前を使って立ち上げたもの。
その味わいは、白糀が造るクエン酸を柱にしたキレのある旨みと瑞々しいワインのような味わい。

仁井田さんの米造りへの取組は、2003年から自社での自然栽培による米作りから始まりました。
それは酒造りの自然環境を守ることに加え生産農家の高齢化などの理由から、自然栽培を習得しておかなければとの思いからでした。
2009年には農業法人『仁井田本家あぐり』を立ち上げ、有機JAS認定を受けています。
そして翌年には全量自然米、全量純米酒を、さらに2013年には全量自然派酒母(酵母添加なしの生酛づくり)を実現しています。
2019年には、自ら酒米栽培に取り組む『農!と言える酒蔵の会』に参加。 積極的に酒米造りの状況やノウハウを発信しています。
仁井田本店の自社田約6ヘクタールを、蔵人や応援団が総出で自然栽培の酒米作り。 ゆくゆくは田村町全体60ヘクタールを自然派の田んぼにしたいそうですが、さて。

農業の6次産業化ってよく言われるけど、新井田本家さんは完全に実現しているね! それにしても、無農薬・無肥料で酒米を作るのは、田圃の雑草取りや畦の草刈りなど大変だあ・・・
特別栽培、有機栽培や自然栽培の違いってわかりますか?
『自然栽培』とは、農薬、除草剤や肥料(有機肥料も含む)を使用せず、稲わら、もみ殻、畦の草など田んぼで採れたものを田んぼに返すだけの無肥料自然栽培の農法です。
一方『有機栽培』とは、農薬や化学肥料を使わないで動物堆肥で土を作る農法。 また『特別栽培』とは、農薬や化学肥料が5割以下の使用で栽培される農法です。
ここで、理解のために有機栽培や自然栽培らとの違いを整理してみました。 慣行栽培に比べて農薬・肥料を減らしたり入れないのは、除草などの手間が大変掛かるそうですね。
施工 | 慣行栽培 | 特別栽培 | 有機栽培 | 自然栽培 | 自然農法 |
農薬 | ○ | △5割以下 | ×2年以上不使用 | × | × |
化学肥料 | ○ | △5割以下 | ×2年以上不使用 | × | × |
有機肥料 | ○ | ー | ○動物堆肥 | △稲藁など | × |
除草・耕起 | ○ | ○ | ○ | ○ | × |
収穫量 | 標準 | やや少なめ | 半分 | ||
価格 | 標準 | やや高め | やや高め | 2~3倍 |

『無農薬○』『減農薬○』『無化学肥料○』『減化学肥料○』などの表示は禁止され、『特別栽培○』に統一されているね。 また、有機JASマークがない農産物に『有機○○』、『オーガニック△△』などの表示も禁止されている!
福島の日本酒『おだやか 純米吟醸 ひやおろし』と今夜の肴
今年の秋は長雨が多くて、今後の天候回復で秋の実りは期待できるでしょうか?
最近はキノコも獲れなくなっているようですが、今夜はすき焼きで合わせてみました。
豊饒な酸味が利いた味わいのお酒が、味の沁みた野菜や豆腐をするするとすすめてくれます。

『仁井田本家』の紹介
『仁井田本家』さんの歴史は古くて1711年の創業、今年で310年を迎えています。
そんな歴史と伝統を守るのは、18代目蔵元兼杜氏の仁井田穏彦さん。 1988年に東京農大醸造科を卒業し、東京で4年程修行を積んで蔵に戻ります。
ところが、1994年に先代が病に倒れ28歳で蔵元となりますが、この時代はバブル崩壊直後。 先代の好景気の時代と違って日本酒は売れない時代で、苦労が多かったそうです。
そして酒造りの師匠だった南部杜氏が2010年に引退したため、自ら酒造りを引き継ぎ歴代初の蔵元杜氏となり、『自然派宣言』を打ち出します。

ところが翌年の2011年に、なんと東日本大震災による原発事故が発生し、『自然派宣言』とは反対の方向に軸が動いてしまいます。
福島の生産品には風評被害のレッテルが張られて落ち込む中で、仁井田さんがたどり着いた結論は『自然派』に拘り続けることでした。
そして、風評被害にもがく米農家さんには酒米を作ってもらい、福島県内の契約農家さんとの輪を広げていったそうです。
一方女将の真樹さんは、酒の売り上げが下がる中で、糀の甘みを生かしたスイーツや、ノンアルコールの甘酒の製造を開始します。
そして安全の言葉が伝わらないならと、『田んぼのがっこう』や『スイーツデイ』などのイベント開催で客造りを行います。
今では、甘酒の水分を絞って作る『こうじチョコ』は全国のナチュラルローソンで、大人気商品となっているそうですよ。

蔵元は安全な米と酒造り。女将さんは商品開発に顧客開拓。 お二人ともエライ! ここ数年、商標やボトルデザインをリニューアルして、モダンなイメージに変わってきたね。 マークの蛙がかわいい!
まとめ
今回の日本酒レビューは、なんだか農業レポートみたいになってしまいましたが、食の安全って大事ですよね。
聞けば日本の農地面積当たりの農薬使用量は世界トップレベル。(2020農水省資料) 日本酒は農産物ともいえるなかで、この数字には驚かされます。
多くの農産物や水産物、畜産物など言わずもがなの食の安全性には疑問符だらけ。
今夜はなぜか飲み心が縮みそうですが、仁井田さんの益々の奮闘に期待してやっぱり飲みます!
それでは皆さん、今回はこれで失礼します。