日本酒ファンの皆さんこんにちは!
今回は、長野県は南信・中川村の『今錦 中川村のたま子』を紹介します。
ここ伊那谷にある中川村は『日本で一番美しい村』連合に加盟し、先人から受け継いできた自然・文化や美しい景観を守ってきました。
さてそんな村の『今錦 中川村のたま子』、一体どんな味わいなんでしょうか?
『今錦 中川村のたま子』は、夏酒らしい力強さとキレ良い味わい
伊那谷の棚田で作られる美山錦は、強い芯のある酒質を生んでいる
中川村は上伊那の最南端。 西に中央アルプス、東に南アルプス、その間を蛇行して流れる天竜川の河岸段丘の左右に村があります。
酒蔵はその東岸に位置し、仕込水は勿論南アルプスの湧水を引いています。
さて酒米ですが、こちら『中川村のたま子』は、中川村産『美山錦』が100%使われています。
少しく説明すれば、兄貴分のお酒『おたまじゃく』には、棚田の景観と文化を残すため地元中川村飯沼地区の棚田の酒米が使われています。
残念なことに棚田ゆえに作数が少なくて、そこで中川村全域の美山錦を使ったのが『たま子』なんです。
つまり、お酒の造りは同じで田んぼ違いの酒米で、お酒を楽しもうって企画なんだとか。
《原料米》長野県中川村産『美山錦』100%
《精米歩合》59%
《酵母》-
《日本酒度》- 《酸度》-
《アルコール度》16度
《造り》特別純米生原酒
《お値段》720 ml 1568円
《製造》2023年6月
特徴的なのはすべて『酒槽』で搾られており、この夏酒は春先に搾られて生原酒のまま氷温で貯蔵され、6月に出荷されたもの。
口に含むと清涼感溢れる口当たりから、瑞々しい酸や辛さがぐっと広がります。
そして飲み込むと、キリっとしたキレが現れ、スッキリと消えていきます。
日をまたげばスッキリした味わいから、より力強い骨格を持った旨みが出てきて、飲みごたえのある味わいが更に強調されます。
それにしても、北信あたりの美山錦はスッキリ芳醇な味わいだけど、伊那谷はチョット骨太な辛口の味わい。 南北に200キロの長野県、広いねえ・・・
親会社ともども棚田で米を作り、保全活動に取り組む!
『米澤酒造』さんが、伊那食品工業のグループ会社となったのは2014年(平成26年)。
以来 美しい農村の原風景を残すために、田植え、土手の草刈り、稲刈りがグループ全体で行われています。
ところで、長野県では棚田の保全団体や関係市町村、県がメンバーとなって『信州棚田ネットワーク』が構成され、棚田の保全と活性化が行われています。
多くの山に囲まれた長野県は水田の3割が棚田といわれ、『日本の棚田百選』に認定された棚田は16か所、日本一の多さです。
棚田の保全は簡単なことではなく、直接的な保全を担う農家の減少や集落全体の人口減や過疎化、高齢化等により、荒廃の危機にあります。
水源を管理する人手や改修にかかる費用も足らず、土砂崩れなど災害につながる危険もあって、社会全体の課題になっています。
いろんな酒蔵さんで、棚田を始め休耕田などを使った酒米づくりなどが取り組まれている。 さらには山林、水源などの自然保全と、本当に頭が下がる思いだね。
『今錦 中川村のたま子』と今夜の肴
伊那谷の中央に位置する中川村は、自然豊かな村。 この辺りの特産品と言えば、リンゴを始めとしたフルーツや、なんと言ってもマツタケ。
通販で豊丘村からよく求めますがまだ時期には早く、今夜は豚しゃぶと牛カルビで辛口の今錦をいただきます。
『米澤酒造』の紹介
『米澤酒造』さんの操業は1907年(明治40年)。 北伊那には8つの酒蔵があり、当蔵は最南端。 南伊那に下れば、飯田に1蔵があるのみです。
こんな地域にとっては貴重な老舗酒蔵でしたが後継ぎがなく、経営難に陥っていました。
そこに、伊那を代表する超優良企業の『伊那食品工業』さんが名乗りを上げます。 それは、まさに伊那谷の村の風景と文化を残す使命感からでした。
『伊那食品工業』さんは、寒天を中心とした研究開発型企業で国内トップ。 伊那地域にあって社員の幸せを追求する『年輪経営』を50年余にわたって実践されています。
新体制は酒蔵をグループ子会社化。 そして会長・社長のもとに、専務は伊那食品工業さんから松下一成さんを、新杜氏には『真澄』の坂口竣弥さんを迎えます。
まずは、酒造りの勉強を元社員が蔵元を務める『大雪渓酒造』で学び、さらにお得意先の紹介で、仙台の酒蔵さんにも学びます。
一方、老朽化した設備・建物を徐々に刷新、親会社で培った衛生管理を徹底します。
およそ3年掛りで、仕込み蔵、槽場、瓶詰場すべてにおいて低温環境を実現し、製麹室やパストライザーも新設されました。
そして、当蔵の特徴であった木製の『酒槽』は、2022年にメンテナンスしやすいステンレス製に更新されています。
なんと8億円の投資がかかったそうだけど、酒蔵+観光施設と考えれば、親会社の年輪経営に繋がるかな・・・
造りそのものは変えずにクリーンな醸造環境が寄与したのでしょうか。 そしてまた、親会社の研究開発部との連携効果があるのでしょうか。
槽搾りの柔らかい酒質に一段と磨きがかかり、ここ数年で様々なコンテストで上位入賞を果たしています。
なんとその成績結果を表す『世界酒蔵コンテスト』は2020年から2022年迄、3年間ベストテンに入る大躍進を遂げています。
失ったら二度と取り戻せない日本の山村の景観や環境・文化を、観光酒蔵やイベントで多くの人を呼び込んで地域を守る。 遠くを見やる年輪経営、立派な経営理念だね!
まとめ
皆さんいかがでしたでしょうか?
酒蔵名の『今錦』は、蔵元さんのご先祖さんが草相撲の横綱を張っていたシコ名なんだとか。 立派な酒名ですね。
そんなのどかな里山の酒蔵経営は苦しくも地域文化の旗頭。 地元で頑張る会社さんのご支援があってこそです。
山口の天美を再生させた地元優良企業の長州産業さん。 あるいは、御湖鶴を復活させたOEM取引先だった磐越運送さんしかり。
それぞれ地域の皆さんに愛された酒を守り、地域文化の伝統をつなぎ自然を残す。 その使命を見事に果たされています。
それでは皆さん、今回はこれで失礼します。 今回も最後までお読みいただき有難うございます。