日本酒ファンの皆さんこんにちは!
今回紹介するのは、4年前に北海道東川町の公設酒蔵としてオープンした三千櫻酒造さんが醸す『三千櫻 愛山60ひやおろし』を紹介します。
三千櫻酒造さんは、水が豊富で冬の寒さが厳しい酒造りに適した環境を求めて、岐阜県中津川から北海道東川町へ移転した酒蔵さんです。
今年9月に酒蔵を訪問し、4期目となる順調な酒造りのスタートを確認してきました。
さて『三千櫻 愛山60ひやおろし』、一体どんな味わいなんでしょうか?
『三千櫻 愛山60ひやおろし』はキュートな甘みに程よい厚み
大雪の天然の雪解け水で、深い味わいに仕上がっている
旭川の南に位置する東川町は、国道、鉄道、そして水道と『3つの道がない町』。 家々では大雪山の豊富な雪解け水を電動ポンプで汲み上げているとか。
なので東川町では、住民の貴重な財産である地下水の適正採取の規制と、汚染防止対策が行われています。
とても大事にされている地下水ですが、硬度は意外や60~80の中高水。 ここの水はミネラルが豊富で、酵母が活性化して発酵が進みやすいのです。
中津川時代はその10分の1の超軟水で、発酵が進まずアルコール度も上がりませんでした。
そんな大きな環境変化にもかかわらず数値データの変化を抑えながら、味わいは一層透明感が増したそうですから移転大成功でしょう。
《原料米》兵庫県産『愛山』100%
《精米歩合》60%
《酵母》-
《日本酒度》- 《酸度》-
《アルコール度》16度
《造り》火入れ
《お値段》720 ml 1980円
《製造》2023年9月
さて一方の酒米ですが、ここ東川町は北海道でも指折りの米どころ。 『東川米』は、北海道初の地域ブランド米なんです。
メインの酒米には地元産の『彗星』と『きたしずく』が、レギュラー酒(普通酒)には飯米の『ななつぼし』が使われています。
移転にあたり、JAひがしかわさんが初めての酒米栽培に挑戦。 組合長さんを筆頭に選抜された農家さんは、見事な出来栄えの酒米を提供されています。
このお酒はひと夏を超えたひやおろし。 中津川時代から大切にされてきた蔵元さん自慢の『兵庫県産愛山』で醸されています。
穏やかな芳香に、柔らかな中にキラリと光る愛山らしいキュートな甘み。 熟成の程よい厚みがたまらない旨さです。
水と米の町で醸す三千櫻のラインナップ紹介
東川町での造りは2023BYで4期目を迎えますが、岐阜時代からの愛山に加えて地元酒米での造りもいよいよこなれてきた様子が伺えます。
ここでは簡単に造りと特徴を紹介します。
銘柄 | 造り/酒米/精米歩合 | 特徴 |
三千櫻 | 純米大吟醸/きたしずく45 | 直汲み生原酒。穏やかな果実香、すっきりした口当たりから軽やかに広がる軽快な旨みのある中口です。 |
〃 | 純米大吟醸/彗星45 | 直汲み生原酒。ややフルーティで、程よくジューシーな甘みを優しい酸が支えます。 |
〃 | 純米/愛山60 | 酵母無添加、生原酒。穏やかな香りから広がる透明感溢れる旨みは、とてもナチュラルで、軽快でキュートな旨みの中口です。 |
〃 | R(普通酒)ななつぼし65 | ほのかなフルーティ香、直汲みならではの微発泡から広がる軽快な旨みに程よい酸、後口のキレも良好です。 |
蔵元さん手の内の『愛山』は意外に深みのある味わい。 トラマサは、北海道米のスッキリ味『彗星』や普通酒の『ななつぼし』がお気に入りかな・・・
『三千櫻 愛山60ひやおろし』と今夜の肴
東山町は、昭和50年代からの『一村一品』運動よろしく、見事な特産品と地域振興を遂げている町です。
米、木工家具、そして写真・デザイン。 数十年かけての取り組みは新たな魅力を生み、この25年で20%も人口が増えています。
実はここにも秘策があって、家の新築や移住支援などの助成・支援などの制度を充実させ、人口8600人のうち半数が移住者といいます。
緩やかな時間が流れる東川町。 そんな風景を思い出しながら、今夜は豚カツに秋野菜の天ぷらで、ふかまりの『三千櫻 愛山60ひやおろし』をいただきました。
『三千櫻酒造』の紹介
東川町で2003年より5期20年務める松岡市郎町長。 その当時は国の平成大合併の掛け声に揺れる中、合併反対を掲げての立候補でした。
見事当選を果たしますが、地域の人々とともに少子高齢化・人口減少と地域経済の活性化の両輪を考えることとなりました。
ところが1985年から続いていた写真展など『写真の町事業』の委託先が、2005年に倒産。 もう丸投げはできず、職員自らが事業を担うことになります。
結果的にこれが民間企業や内外の写真家、デザイナーなどとの人脈を広げ、外に開かれた役場を生むことになります。
町長は、これより職員に知力と実行力を求める『個性創造型』行政への転換を促し、様々な子育て・教育政策や移住政策、さらには起業支援政策を生みだしていきます。
こうして東川町は、20年以上にわたって移住者や起業家を呼び込んで町の魅力を創造し、人口増加を続けているのです。
さて大雪山の麓にある『水道のない町』東川町には、『旨い水』と『旨いお米』がありましたが、 無いのは『旨い酒』でした。
一方の岐阜県中津川市の『三千櫻酒造』は、1877年(明治10年)の創業。 蔵元杜氏を務めるのは6代目山田耕司社長です。
山田さんは30代半ばまで台湾で日本語教師をしていましたが、先代の体調悪化で1995年に蔵に帰ってきました。
3人の杜氏の下で酒造りを学び2004年には蔵元杜氏となり、キレの良い酒造りを志向。 2010年ごろには首都圏などでの販売も軌道に乗ります。
その後温暖化の影響を強く受けるようになり、造りの手間が掛かり又酒蔵の老朽化にも悩まされる中、彗星米で試験醸造をすると確かな手応えを掴み、北への移転志向を強めます。
2018年移転候補先を探る中で、台湾時代の知人から北海道東川町が公設民営型酒蔵を公募しているという話が舞い込みます。
早速町長に面会すれば、町で獲れた米を町内の酒蔵が酒にすれば特産品になるので、町が蔵を建て酒造りを酒造会社に委託するという魅力的な内容でした。
交付金の活用に長ける町職員は、総工費3億5千万円を国からの農業振興や地域振興の補助金などで大半を賄い、移転してくる酒蔵負担は軽くして5千万円に纏めあげました。
二階建て・延べ床面積約680㎡の酒蔵はコンパクトな造り。 理想的な動線に、絞り室は冷房化され、キャパは岐阜時代から3~4倍にアップされている。
公募審査では、製造環境が変わっても品質を維持・向上できる技術や、従業員の新規雇用や外国語での発信能力などが評価されて、三千櫻酒造への運営委託が決定されました。
こうして岐阜から山田社長ら3組の夫婦・6名が北海道東川町へと移り住み、2020年10月より新たな酒造りが始まったのです。
まとめ
1500キロもの移動による自然豊かな地への酒蔵移転は、果たして透明感のある道産子の銘酒を生みました。
北海道の水と米は、温暖化の時代を迎えた酒蔵経営にとって大きな魅力であり、成功の機会があります。 そして事業継続性に富んでいます。
それにしても、経済合理性に恵まれたスキームながら60歳で移転決意をした山田社長の心意気、酒造りにかける情熱とプロ根性に感服です。
さて旭川地方の今年の気象データをひも解けば、酒造りの冬季の最高気温は70日近くが零度以下なので問題はありません。
でも今年の夏季は最高気温30度以上の日数が30日、35度以上が2日もあります。 もはや北海道の夏は温暖化を超える状態です。
そんな気候変動を味方につけて、これまで栽培北限地が新潟村上までだった『山田錦』を6年かけて栽培を繰り返し、徐々に収量を増やして試験醸造にまでこぎつけた農場があります。
今は芦別だけですが、そのうち北海道全土で『山田錦』が栽培されるかも知れないですね。 気候変動は、米も醸し人も北へと誘うのでしょうか・・・
それでは皆さん、今回はこれで失礼します。 今回も最後までお読みいただき有難うございます。