日本酒フアンの皆さん、こんにちわ!
今日は、久しぶりに銘醸蔵探訪シリーズの執筆となります。
当ブログ『日本酒探訪』もようやく100記事を超えて、日本酒レビューや県別・季節ごとの紹介記事は80記事にもなりました。
コロナ禍にあって酒蔵訪問もままならない状況では、銘醸蔵シリーズもこれまでかと思っていました。
ところが今回、ようやく県外への旅行も解禁。 早速紅葉見物にとしゃれこんでプランニングしますと、目的地の近くにありましたよ、銘醸蔵が・・・
それでは、早速紹介しましょう! 今回は酒質が上がり様々なコンテストで上位入賞して、全国で大人気となっている宮城県大崎市にある『寒梅酒造』さんです。
酒米造りにこだわる『寒梅酒造』は、農家酒蔵のオーソリティー
酒蔵見学はたっぷりの時間と試飲で、日本酒マニアには堪らない!
無人駅の陸羽東線西古川駅をおりて、スマホのナビを頼りに『寒梅酒造』さんを目指します。 田圃の中を進むこと15分余り、まだかなと思いきやいきなりモダンな酒蔵が現れました。
蔵見学の予約は公式ホームページからですが、外部の予約システムが使われています。 仮予約のメールは直ぐに来ますが確定メールがなかなかこないので、ヤキモキしました。
会長さんの案内スケジュールを拝見すれば、10月はなんと8割が埋まっていました。 午前と午後の2回それぞれ2時間程ですが、それにしても案内は大変ですね。
料金は見学のみで1000円、試飲付きで1500円、さらにおつまみ付きは2000円しますが、高いお酒を8杯近く飲めるのですから、むしろ安いくらいです。(最近3杯までとなったようです)
『寒梅酒造』の歴史は、まさに国の政策に翻弄された酒造りの歴史
さて、直営ショップはバーカウンターで4代目岩崎隆聡(たかとし)会長さんの『米造り』の歴史から伺うことになります。 がその前に、簡単に蔵の歴史をおさらいしましょう。
創業は1918年(大正7年)、15町歩もの地主だった岩崎碩次郎氏が地代替わりの地元産米で、『岩崎酒造店』として『誉の高川』の銘柄で販売開始します。
大戦による米不足から企業整備令で1939年に酒造りを休止。 ようやく1957年(昭和32年)に銘柄を『宮寒梅』とし、社名は『寒梅酒造』に改めて酒造りを再開します。
実はこれも当時の国税局からの指導で、戦後の農地解放によって資金がないにもかかわらず酒造りを再始動しなけらばならなかったのです。
その後2代目の南部杜氏が40年前に純米酒造りに力を入れて、高級酒ブームに乗っていたそうです。
自社生産米の波乱万丈の歴史、そして醸すのはすべて宮城県産米
さて『宮寒梅酒造』さんがあるのは、宮城県大崎市。 この辺りは世界農業遺産に登録されており、『大崎耕土』と呼ばれる一大田園地帯です。
蔵の前の田圃は自社田で、昔は何処まであったのでしょうか? 今では県内でも稀な酒米づくりから醸造まで一貫して自前で行う『栽培醸造蔵』なんです。
さあ、会長さんの米づくりの話に戻しましょう。 先ずは『美山錦』、続いて『愛国』、そして『ひより』・・・
現在、自社田では「美山錦」「愛国」「ひより」「山田錦」の4種類を作付。 2割程が自社田での栽培分だそうですが、その他は契約農家さんの栽培米。 醸造割合は以下の通りです。
原料米名 | 醸造割合 |
美山錦 | 7割 |
愛国 | 0.5割 |
ひより | 0.5割 |
蔵の花 | 0.5割 |
山田錦 | 1.5割 |
イヤー、すごいね! 蔵の前の田圃で2、3週間かけて米を刈る姿は、どこからみても『農家』だね。 みんなテロワールとか言わないで、泥臭く日本語で『農家酒蔵』って言ってほしいね!
東日本大震災による酒蔵全壊からの復活、そして次世代へのバトンタッチ
支援ファンドによる復興支援でいち早く蔵の再建を果たす
2011年3月、東日本大震災によって酒蔵は倒壊します。 福島もそうでしたが、宮城も内陸部の方が震度は6強で被害がひどかったそうです。
甚大な被害により廃業も考えられたそうですが、全国からの支援を受けてその年の12月には酒蔵を再建します。 しかしながら蔵裏の川堤が陥没した工事は道半ば、酒造りはまだ先となります。
また仕込蔵や商品倉庫には冷房設備を導入して、四季醸造体制を築きます。 この間も農地を荒らす訳にはいかず、契約農家さん共々米作りは継続します。
そしてようやく2012年5月に仕込みを開始、翌年1月には搾りを終えます。 それから取引先を回り、15店舗からの再スタートを切ったのです。
今でもその支援を忘れずに、蔵元さんは売上の一部を全国の災害復興や子ども教育機関等に寄付をする商品を、季節限定で発売されています。
若い世代との経営体質の刷新、最先端の酒造りとラインナップ
隆聡さんには4人の娘さんがあり、長女の真奈さんは福祉系の大学に進むも家業に入る道を選びます。 実はこの頃すでに経営は悪化し、倉庫は不良在庫で一杯だったとか。
真奈さんは酒の仕込を手伝う一方で、税務署へ通って酒税の勉強をしたり異業種交流会で経営ノウハウを学び取ります。
そこで、プロダクトアウトの経営体質を変えるべく、真奈さんは会長や旦那さんと新しい経営ビジョンの討論を重ねます。
導き出されたのは、『農家の血筋を繋ぐ』『自社田栽培米による酒造り』。 そして戦略の要は、新商品の開発でした。
それまでのどっしりと重たい酒質から、香りをプラスして日本酒の苦手な人にも飲みやすいタイプへシフト。 コンセプトは『一杯で旨い酒』、価格も手頃な値段に設定します。
60もの商品ラインを3年間で20に減らして、在庫減らしを図る大胆な戦略でした。 酒造再開と同時に全量純米酒へと切り替え、商品も大きく生まれ変わりました。
そして4代目蔵元だった隆聡さんは、4年前に娘婿の岩崎健弥さん・娘の真奈さんに5代目の経営をバトンタッチしたのです。
お酒の旨みは、冷房完備の仕込み蔵でゆっくりと引き出されている
さあ、会長さんの話も終わって、いよいよ酒造りの現場へ案内となります。 まずは、キャップを被り上履きに履き替えて、失礼しまーす!
午後の時間帯なので酒米の蒸しはなく、これから行われる洗米作業の準備がされていました。 大きなタンクは貯水槽です。
仕込み水は蔵の地下水で硬度50の軟水、鳴瀬川の伏流水を使用しているそうです。
麹室には製麹中の麹はなく、即退散。 麹は突き破精だそうで、別室で乾燥されていました。
続いては、酒母室と仕込み部屋です。 勢いよく泡が出ていますね! 冷房完備の仕込み部屋のタンク10本からは、なんとも言えない芳香が漂ってきます。
さて次は、深い眠りから覚めた醪を絞る別棟に移ります。 搾りはヤブタと袋吊りの2種類です。 搾った後は1日で瓶詰され、鮮度がキッチリと保たれていますよ!
そして、米倉庫と商品倉庫です。 商品倉庫は冷え冷えの氷温貯蔵。 1万本貯蔵可能だそうですが、蔵人3人と役員2人の四季醸造なので、これで十分とのことです。
なお保存ケースは、大震災の際に多くの在庫を喪失した経験から、幅広の8本ケースを使用しているそうです。
蔵の入口にある倉庫では4人の女性が出荷準備中です。 コロナ禍にあっては4合瓶と一升瓶の比率は、半々と言うことでした。
宮寒梅酒造のラインナップは高級酒が中心
多彩な商品ラインは、被りを少なして飲み人を飽きさせない
商品ラインは、純米大吟醸の『EXTRA CLASS』が4つ、純米大吟醸と純米吟醸の『MIYAKANBAI』が8つ、県内酒と生酒の『LIMITED』が4つ、純米酒の『OUSAKI』が3つ、果実酒が2つです。
見事に21に集約されています! 女性が経営の舵を取ると、ぶれずにビシッと決まりますね。
若い世代が経営主体となってラベルのデザインを刷新し、造りも香り華やかでみずみずしいタイプへと変わってきていますよ!
イヤー、ホント女性が加わるだけでこんなに垢抜けしたボトルデザイン。そしてホームページの作成やSNSによるリアルな情報発信は、日本酒ファンの心をワシヅカミするね!
今回酒蔵見学でのおすすめベスト3は、『吟髄』『宮寒梅45』『おりがらみ』
さて、最後にお楽しみの試飲タイムです。 試飲したのは8つ?9つ?。 もう飲み過ぎて、数や感想を忘れてしまうほど。
最初のおすすめは『吟髄』、宮寒梅の最高峰です。 さすが磨き19%で、とても綺麗な喉ごしです。 味わい深く、お酒の輪郭が静かにじわじわと浮かび上がってきます。
一押しに続いて次点は『宮寒梅純米大吟醸45』。 豊かな香りに『美山錦』のふんだんな旨みが堪りません。
3点目のおすすめは『おりがらみ』。 秋の新米で仕込むこの時期限定の生酒らしく、美山錦の瑞々しい香りに包まれています。
トラマサは美山錦が大好きなせいもあって、どれも香りと米の旨みのバランスがとてもいい。 まさにもう一杯!といきたくなるね。 季節で作る酒も変わるので、ぜひ訪ねて欲しいね!
まとめ
皆さんいかがでしたでしょうか?
素朴な語りで米づくりの話をされる会長さんは、ホント酒造りよりも米作り・農業が好きなんだなあと感じ入ってしまいました。
今回の見学に際しては、手塩にかけた酒米の話で30分以上の経過。 『愛国』『ひより』の希少な酒米などにこちらの興味が湧いてきて、一向に話が進みません。
会長さんは、若い世代に経営を譲られていますがまだ62歳とお若い。 酒蔵の経営は若い世代に任せて、米造りはあと20年頑張れるでしょう。
最後に、商品ラインも整った今後の蔵の経営について伺うと、輸出を伸ばし売上拡大の方向か、あるいは規模を追わずじっくりと旨口のお酒造りの方向か尋ねますと、小さく後者と頷かれました。
美味しいお酒造りの前には、やはりナントいっても美味しいお米づくりでしょうか?
会長さん、丁寧なご案内ありがとうございました。 それでは皆さん、今回はこれで失礼します。